ヒロとガイのティータイム

 春の午後、ジムの休憩時間にヒロはガイを誘ってジムの近くのカフェに来ていた。
 
 テラス席に案内され、二人は早速メニューを開いた。
「春の新作スイーツ、美味しそうですね!」
「この苺のパフェが美味かったぜ」
 ガイがメニューを指差しながら言う。
「なるほど。……こっちの苺ムースはどうでしょう」
 
 身長180センチ越えの男二人がカフェでメニューを見ている様子に、周囲の女子たちはざわついていた。
「え?めちゃくちゃかっこよくない?」
「やっば!足なっが……!!」
 どこからかそんな声が聞こえてくる。

「すみませーん!注文お願いしまーす!」
 ヒロが優しいトーンで呼びかけると店内からスタッフが出てきた。
「——この苺タルトと、フランボワーズのケーキお願いします。飲み物はコーヒーと紅茶で」

 注文を受けたスタッフが店内に戻っていくと、ガイが話し始めた。
「で、なんでオレを誘ったんだよ」
「ガイさんならきっとここの新作スイーツをもう食べてると思ったのでおすすめを教えてもらおうかなって」
 ヒロはいつものにこやかな顔で言った。
「まぁ、だいたい食ってるが……じゃなくて、何かオレに話したいことがあったんじゃねーの?」
「……さすがですね。——実は僕」
「お待たせしましたぁ〜!」
 ヒロの言葉を遮るように注文した飲み物が運ばれてきた。
「お先にコーヒーと紅茶をお持ちしましたぁ〜!ケーキはもうしばらくお待ちくださぁ〜い」
 妙にテンションの高いスタッフが飲み物を置き、 店内に戻っていく。

「……」
 ヒロは言いかけた言葉をもう一度口にするが躊躇われるように目の前に置かれたコーヒーを見つめた。
「なんだよ。言いにくいことか?」
 ガイは少し眉間に皺を寄せて言った。
 「いえ……」
 ヒロはコーヒーを一口飲むとソーサーに戻した。
「実は……気になる人ができたんです」
 ヒロの口から出た意外な言葉にガイは目を丸くした。
「……え?オマエが?」
「はい」
「まさか生徒じゃねぇだろうな」
 ガイの言葉にヒロは気まずそうに俯いた。
「マジか……」
「僕もまさかって思ったんですけどね……」
 二人の間に少し気まずい空気が流れる。
「でも僕…」
「苺タルトとフランボワーズのケーキお持ちしましたぁ〜!」
 再び先ほどの妙にテンションの高いスタッフがケーキを持ってやって来た。
「ごゆっくりどうぞ〜!」
 
「……とりあえず食うか」
「そ、そうですね」
 二人はケーキを食べ始めた。

「……で?その相手ってのは誰なんだよ?」
 ガイはケーキを頬張りながら尋ねる。
「え……っと、それは……」
 ヒロは言葉を詰まらせた。
「言えないような相手なのか?」
「いえ……。その人、ガイさんの担当の生徒さんで……」
「あ?オレの担当?誰だよ」
 ガイはそこまで言って言葉を詰まらせた。
「ヒロが気になってるヤツってまさか……」
「……はい」
「マジか……」
 ガイは喉に詰まりかけたケーキを流し込もうと紅茶を飲み干した。
「でも、相手は男だぞ?」
「……はい」
「オマエ、いくら女に言い寄られても全然相手にしてなかったのってそういうことだったのか……?」
「いえ!違います!……少なくとも彼に会うまでは……」
「ふーん。ま、好きになっちまったもんは仕方ねぇ。頑張れよ」
 ガイはそう言って残りの紅茶を飲んだ。
「はい!ありがとうございます!」
 ヒロは笑顔で言った。
「で、なんでそれをオレに話たんだよ」
「あ、それは……ガイさんならそういうことに詳しいんじゃないかと思って……」
「なんでだよ!」
「すみません。でもガイさんていろいろ相談したくなるっていうか……話しやすいというか……」
 ヒロは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「ったく……まぁ、オマエが本気ならオレは応援するぜ?」
 ガイはそう言って笑った。
「……ありがとうございます!」
 ヒロも嬉しそうに微笑む。
 周囲の女子たちはなぜか全員顔を手で覆っている。
「尊い……」
 誰かのつぶやきが聞こえたが、ガイもヒロも気付いていない。
「それじゃそろそろ戻るか」
「そうですね!話聞いてもらってスッキリしました!」
ヒロは爽やかな笑顔を浮かべる。
「おぅ、まぁ頑張れよ」
「はい!ありがとうございます!」
 二人は席を立ち、ジムへと戻っていき、後には女子たちのため息だけが残った。

                          終わり